第17話

この質問に使用人の顔色は青ざめた。「旦那様、報告書はすでに処理しました」

宮崎瑛介は眉をひそめた。

「何を言っている？」

使用人は彼の陰郁なオーラに恐怖を感じ、泣き出しそうになりながら、慌てて説明した。「すみません、旦那様。わざと処理したわけではありません。その報告書はもう破れて見られなくなっていましたから、あまり考えずに、ただ…」

主人が捨てるものに対し、使用人は詮索する必要がない。

宮崎瑛介の会社は秘密を保つために時々文書を粉砕することもある。彼女は単なるアルバイトとして暮らす人間で、その報告書を見た時、あまり深く考えずに処理したのだ。

ここ二日間、薬を作る時、奥様のなにかの病気のためだと思っていたのだが、意外にも熱を下げる薬だった。

彼女の言葉に宮崎瑛介は眉をさらにしかめた。

もともと最近彼女の様子が変だ思っていたのだ。

あんな大雨で、傘を誰かにあげたとしても、どこかで雨を避けたりドライバーに電話をかけて迎えに来てもらったり、あるいは雨が止んだら家に帰っても良いのに。

なぜ雨の中、家に帰ったのか？

執事は心配して言った。「旦那様、奥様はどこか調子が悪いのでしょうか？」

宮崎瑛介は手に持っていた車の鍵と上着を彼に渡した。「二階に行く」

執事は急いでそれを受け取った。

霧島弥生は使用人が去った後、少し休憩しようとしたが、電話を一つ受けた。

小林グループの副総秘書からの電話で、最近のプロジェクトのことの相談だった。

昨日一日会社に行かなかったので、その件についてはまだ誰からも引き継がれていなかった。

電話を切った後、霧島弥生は眉を掻いた。

会社は忙しくて、一日行かないだけで、仕事は溜まっていく。

どうやら、彼女は今日にも仕事に戻らなければならない。

霧島弥生は自分のノートパソコンを取り出して、メールにログインし、仕事を処理しようとした。

しかしその時、誰かの足音が自分のそばで止まり、かすかなさっぱりとした香りが漂ってきた。

霧島弥生は、顔を上げた。

一目で、彼女は宮崎瑛介の真っ黒な瞳に吸い込まれた。

突然彼を見ると、霧島弥生は驚いて、「なぜここにいるの？」と尋ねた。

宮崎瑛介は薄い唇を微かに噛んだ。

「ここは私の部屋だ」

その口ぶりは冷たく感じた。

霧島弥生はぼんやりして、直感的に尋ねた。「外でいじめられでもしたの？ どうしてこんなに口調が強いの？

」

「何だそれ？ 」宮崎瑛介は眉をひそめ、この質問を不思議に思った。早朝なのに外でいじめられたってどういう意味なのか？

しかし、彼は突然何かを思い出して、話を止めた。しばらく黙っていた後、彼はどのような気持ちで話していたか分からないまま、「昨夜、私は家にいた」と言った。

やはり、霧島弥生は意外だといった表情をした。

宮崎瑛介は彼女を見つめた。「驚いたか？昨夜、君の側に寝ていたのに、気づかなかったのか？」

霧島弥生は唇を噛んで何も言わなかった。「……」

やはり、真夜中に感じたあの感触は幻でなかった。

彼女はぼんやりと眠っていて、目が覚めた後、彼の位置が冷たく感じたから、彼が一晩中帰ってこなかったと思っていた。

彼が家にいることがわかって、霧島弥生の気持ちは少し複雑になった。

「あなたは戻らないと思っていた」

その一言で、二人は沈黙に包まれた。

江口奈々が戻ってからたった二日間で、彼らの関係はこれほどまでに不自然になり、まるで見知らぬ人のように感じた。

誰もその気まずい話題について話そうとしなかった。

どうやらこの話題は二人にとって暗黙の了解で、その話題を避けているようだ。それは、おそらくそれぞれ自身しかわからない。

しばらくして、宮崎瑛介は突然尋ねた。「どうして薬を飲まないんだ？」